その記事は
これ。
ラブ要素はないです。明神さん性格悪い。
続きを読む「体育の授業で突き指しちゃって」
照れ笑いしながら、姫乃が右手をかざす。その薬指には包帯がグルグルと巻きつけられていた。素肌の覗く指先も、うっすらと変色しているのが痛々しい。
「うわ大丈夫か? 痛そうだな」明神は眉をひそめて覗き込んだ。
「今日の晩ご飯の献立を考えてたら、ボール取り損ねちゃった」
他人事のように言う姫乃に、明神は「心配七割、呆れ三割」といった感じのため息をつく。
「……ひめのんて意外とどんくさいな」「えへへ」「いや褒めてねーし」
「というわけで、今日の晩ご飯は出来合いのものなんだけど、いい?」
姫乃が提げているビニール袋の中身は、いわゆるコンビニ弁当と呼ばれるものであった。
「全然構わないよ」「よかったー。じゃあどっちにする?」「そっちもらおうかな」
こうして、少々イレギュラーではあるものの、夕食は特に問題なく始まった。
――数分後
「……」
「……」
向かい合う二人。
「ひめ」「言わないで明神さん」
そこには、まるで親の仇を見るかのように箸を凝視する姫乃の姿があった。気迫におされ、明神はただ彼女を見つめる事しか出来ない。
(「メシ作れない」ってことには気が回るのに、なんで気付かなかったんだ?)明神は内心で突っ込んだ。気付かなかったのはオレもか、と思い直す。
いつまでもこうしているわけにもいかず、なにやら唸り出している姫乃に、意を決して声をかける。断られるのを覚悟の上で。
「食わせてやろうか?」
「……え?」姫乃がようやく顔を上げた。何を言われたのか全く理解出来ないという表情をしていた。
「いや、利き手痛めてるのにそのままじゃ無理だって。食べさせてやるから箸貸して」
「え、え、え、いいいい、い、いいです遠慮しておきます!」
箸を渡せと催促して腕を伸ばすと、姫乃の顔は瞬時に赤くなり、大げさに飛び退いた。不自然な程に距離をとられる。
予想以上に激しい反応に、明神は正直驚いた。しかしうろたえる姫乃を見るうちに、次第に愉快になって来る。
「何だ、『はいあーん』てするだけだろ。そんなに恥ずかしがらなくても」
きっとオレ今嫌な笑い方してるんだろうな、と判っていても、笑みが浮かぶのを抑えられない。
「される方は恥ずかしいよっ!」
もはやからかわれているだけなのに気付かず、まっすぐな反応を返す姫乃が可愛らしい。明神はしばしこの悪趣味な遊びを楽しんだ。
姫乃が台所にあるスプーンの存在を思い出すのは、根負けして弁当をほとんど片付けた後だった。
おわり